映画:『千年女優』

 

『パプリカ』に続いて『千年女優』を観ました。

 

パプリカと千葉敦子は林原めぐみ一人二役でしたが

今作は大女優藤原千代子を三人一役で演じます。

それでも同一人物として違和感がないことがすごい。

 

現代から記憶の中、映画のシーンとシームレスに切り替わる表現は

アニメならではで素晴らしい。

これ、タカラヅカの盆(宝塚大劇場にある舞台が回転する装置)

なら再現できないかなあ。

 

たった数時間を一緒に過ごしただけの男性・鍵の君に恋をし

生涯追いかけ続けた女優、千代子。

彼女にインタビューを申し込んだのは熱心なファンである立花。

 

思想犯として追われる男性と偶然ぶつかった千代子。

官憲に行き先を問われ、とっさに別の方向を示す。

この瞬間に彼女の女優としての人生が始まったのではと

私は思うのです。

 

家の倉庫に匿い、男性から「一番大切なものを開ける鍵」を預かる。

それはおそらく男性が持っている絵の具箱を開ける鍵。

そのことには千代子も気がついている。

でも分からないふりをして返事を明日へ伸ばそうとする。

 

少しでも一緒にいたいという思いが伝わっていじましくかわいらしい。

そして彼女はここでも演技をするのですね。

 

男性は官憲に見つかり、倉庫から逃げ出してその後出会えないまま。

満州に仲間がいると話していたのを思い出し

映画出演を口実に撮影に向かうのです。

ここでも表向きはお国のためと言い張ります。

 

その後人気女優になる千代子。

その側にはいつもあの鍵がありました。

 

鍵を紛失した際には映画監督のプロポーズを受け入れ

結婚・引退するのですが

それは千代子の気を引きたい映画監督が仕組んだ罠。

 

再び鍵を手に入れた千代子は女優に復帰。

しかし映画の撮影途中に抜け出したっきり失踪。

この時にまた落としてしまった鍵を持っていたのが立花というわけ。

 

彼は千代子が出演していた映画の製作会社、銀英に所属しており

折々に千代子に寄り添い、助けていたのでした。

千代子が思いだす映画の中でもいつも協力し、支える役を買って出る。

 

途中千代子が体調を崩した際に

何度も立花に助けてもらっていたことに気づくシーンが好き。

鍵の君を追いかけること、演じることだけを考えてきた千代子が

それ以外のことに目を向けられるようになったことが嬉しい。

 

千代子は最期、映画ワンシーンそのままに宇宙に旅立ちます。

結局生涯女優であり、その人生を愛していたというわけ。

それは「あの人を追いかけている私が好き」

というセリフからも分かります。

 

「一番大切なものを開ける鍵」は鍵の君との思い出である以上に

千代子の女優人生を導く鍵なのだと思います。

彼女の恋したものは鍵の君ではなく

鍵の君を追いかける女優である自分自身というわけ。

 

引退は鍵の君に老いた自分を見られたくなかったと述懐していました

老いた自分を見たくなかったが正解でしょう。

そして必要が無くなった鍵は立花が返却するまで失われたまま。

しかし手元に戻ってきたことで、生涯を再び演じることになったのでは。

 

残念だったのは、もっと長生きしたならば

例えば立花や、他にもたくさんいたであろう彼女のファン

周囲の人々からの優しさに気づけたんじゃないかなあということ。

 

いや、やっぱり鍵の君より、ファンより、優しさより

女優としての自分が一番好きなままかな。

それでこそ女優として生き抜いたということの証なのかも。